「あら、刑事さん、野暮な事を聞かないでよ。二人っきりで楽しい事に決まってるでしょ」
質問をした原は、恥ずかしそうに俯いてしまった。
確かに百パーセントとは言い切れないが、町田は限りなくシロと考えざるを得なかった。後は、ジョセフに事実を突きつけてウラを取る事になるが、木村と原は、この第三の人物の線が消えたことを確信した。
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防犯カメラに映った第三の人物は、国枝和子の向かいの部屋の住人、ジョセフ・ロペスを訪れた人物であることが確認され、国枝和子殺害犯の有力候補であったこの人物も捜査線上からおおかた消えることになった。
もう一人の有力候補者である田代正樹に似た人物に関する手がかりも今のところ皆無で、暗礁に乗り上げた感のある捜査本部に、その日激震が走った。
西城警察署に設けられた特別捜査本部に、田代正樹が自ら出頭してきたのだ。田代は、伝えたい事があると宇佐見刑事を名指しして、一人で西城警察署を訪れた。
外回りから直ちに呼び戻された宇佐見が、前回事情聴取をした同じ部屋で佐伯刑事と共に田代を迎えた。今回は、事の重大さに植村も同席していた。
関係者控え室で待たされてようやく呼ばれた田代が、伏し目がちに取調室に入ってきた。
「お待たせをして申し訳ありませんでした。この間はどうも。今日は、なにかお話しいただく事があるとか?」