深刻な顔付きで入ってきた田代の気持ちをほぐすように、宇佐見はことさら明るい調子で言った。
「あの、公開捜査は始まったんでしょうか?」
「はあ?」
「この間、そろそろ写真の公開をするような事を」
「あっ、あのことですか。それにつきましては捜査上の機密でもありますので」
宇佐見は、戸惑った表情で植村の方を見た。
「はい。公開捜査につきましては、次の捜査会議で決定し通達する予定です。恐らく、来週あたりから写真の公開が始まるかと思いますが」
宇佐見が田代正樹に似た人物の写真の公開を臭わせて来たと悟った植村が、いかにも既定事実であるかのように答えた。
「そうですか。あの……実は見せていただいた写真に心当たりが」
田代正樹が意を決したように言った。顔面が蒼白だ。
「えっ」
植村が声を上げた。しかし、宇佐見と佐伯は驚かなかった。写真を見た際の田代正樹の態度から、田代が写真の人物について何かを知っていると疑い続けていた二人は、してやったりと顔を見合わせた。
「知らないとおっしゃってましたが。どういうことですか?」
宇佐見は、はやる気持ちを抑えて冷静に問いかけた。
「弟じゃないかと。いや、弟なんです」
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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