【前回の記事を読む】"情緒不安定だった娘"に再び向けられる疑念──飯島めいの過去を問う刑事に、父親は不信感を募らせ…
15
二人は、グラディエーターのママあたりから連絡がいくことを警戒して、その場から上野に急行した。
二人は、山手線の御徒町駅を出ると上野広小路方面に向かった。街は、桜の最盛期を迎えて賑わう上野公園から流れてきた人々で溢れ、華やいだ宵の空気に包まれていた。
サザンは春日通り裏の複雑な路地の奥にある店だったが、原が操作するスマートフォンのナビで容易に見つけることが出来た。
第三の人物、通称ケンジが犯人である可能性は低くなったこともあり、二人は周囲への慎重な聞き込みを省いて直ちに店に入った。
「いらっしゃーい」
思い切り明るい声で迎えられた。開店直後のようで、カウンター内に女装した男性だと一目で分かるママらしい人物と、テーブルを拭いている従業員の二人がいるだけで客はいなかった。
木村と原が警察手帳を出して名乗ると、何かやましいことでもあるのか、にこやかに二人を迎えたママらしい男性は、急に神妙になり明らかに動揺した様子を見せた。
「ここのママさんですか?」
原がカウンター内の人物に声をかけた。