【前回の記事を読む】思わぬ手がかりに喜びも束の間、再び遠のく真相。飯島めいの過去に隠された秘密とは?

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宇佐見はブティック・ワンの田代を訪ねるため、佐伯刑事と連れ立って再び武蔵小杉駅に降り立った。前回訪れた時には冷たい風の中で寒々とした無機の街という印象を受けた武蔵小杉駅前も、今日は早春の明るい日差しに包まれ華やかな賑わいを見せていた。

丸裸だった街路樹も、パステルグリーンの若葉を纏い始めており、それらがそよ風に吹かれて心地よさそうに揺れていた。

宇佐見と佐伯は、入り口で一瞬躊躇するように顔を見合わせたが、意を決すると回転ドアを勢いよく押して店に入った。店頭では、ちょうど田代がいかにも裕福そうな老婦人を相手に接客をしているところであった。

「いらっしゃいませ」

若い店員の声に田代が入り口の方を見た。

「いらっしゃい…」

二人の姿を見た田代の表情が瞬時に曇り、挨拶の言葉も途切れた。

「その節は、ご協力ありがとうございました」

田代が女性店員に接客を任せて二人に近づいて来ると、宇佐見は佐伯と一緒に丁寧に頭を下げながら言った。

「まだ、何か?」

挑むような言い方だ。