【前回の記事を読む】もう一度写真に対する反応を確かめたい――刑事たちは、再び疑惑の人物・田代のもとへ向かうことに
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「はい。写真を全国の交番や駅、それにメディアに公開して、広く情報を集めることになります。プライバシー保護の点で問題となることがありますので、こうして関係のある全ての方に事前に確認をとるようにしています。
マンションの住人にこの人物を知っている者はいませんし、これで国枝和子さんに関係した方々も大方確認が済みましたので、間もなく公開捜査に踏み切ることになると思います。今日はご協力ありがとうございました」
宇佐見の先入観がそう思わせるのか、田代正樹は公開捜査と聞いた時から動揺した様子が見られ、言葉もなく二人を見送る姿は心なしか呆然としているように見えた。
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大使館員ジョセフ・ロペスと第三の人物との間に関係があるかどうか、今度こそ分かる可能性が高いと秋月刑事が期待していた週末、ジョセフは新宿二丁目に出かけることはなく西城公園のマンションに籠もりきりだった。
ジョセフが新宿二丁目のバー、グラディエーターに出入りしているという事実は掴んだが、その後二週間あまり経っても第三の人物の姿を見ることは出来なかった。
焦りの出てきた秋月に命じられ、木村と原は、週明けからグラディエーターやその周辺の店の聞き込みを開始した。
世間でようやくが認知されるようになったとは言え、街に出入りする人物の個人情報について、ここの住人たちが神経質になっていることは十分理解出来た。
それにしてもグラディエーターのオーナーの口は堅く、のらりくらりとした返事が返ってくるだけであった。
「うーん、見たような気もするけど、よく分からないわねえ」
グラディエーターのオーナーは、かつて大相撲で活躍をした把瑠都(ばると)そっくりの大男で、飯田マコと名乗った。女っぽい口調とその見た目のアンバランスに引き気味の原刑事は、しかし食い下がった。
「この人を犯人として追っているわけではないんです。この辺りに来ているかどうかが分かれば、それだけでもいいんです」