「ええ、でもねえ。たくさんお客さんいらっしゃるから、いちいち覚えてなんかいないわよ」
「でも、見たような気はするんですね」
「だから、たくさんのお客さんの中にいたかもしれないけど、はっきりしないのよ」
「こういうお店は、常連さんが多いんじゃないんですか? 一見さんが入れ代わり立ち代わりってあるんですか?」
「あら、失礼ね。このお店って結構流行ってるのよ。おなじみさんも多いけど、そのおなじみさんに連れてこられる一見さんも多いのよ」
「それじゃ、その常連さんに連れてこられた人の中に、この写真の男がいた気がするということですね」
「だから、はっきり覚えていないのよ。見たような気もするけど、似た人かもしれないし。分からないわ」
「じゃあ、ともかくこの店に来た可能性はあるということですね」
押し問答を続ける原の袖を引いて、帰るぞと目で合図をしながら木村が言った。
「分かりました。ご協力ありがとうございました。従業員の皆さんはまだお見えではないようなんで、皆さんがいらっしゃる時にまた来させてもらうかもしれません。その際もご協力よろしくお願いします」
木村が原を押し出すようにして、二人はグラディエーターを出た。
「どうしてですか? どうして帰るんですか? もう少しはっきりさせてもいいんじゃないですか」
原が不満そうに言った。
「バカだな。ママは知ってるって言ってんじゃないか」
「えっ?」