【前回の記事を読む】第三の人物の手がかりを求め、新宿二丁目のバー『グラディエーター』に聞き込みへ。だがオーナーは反応は…
13
「ママさんから注意がいく前に、今ここで不意打ちを食らわすんだよ。そのつもりで帰る際に、いずれ従業員が居る時にまた訊きに来るって言って、ちょっとママさんを油断させておいたんだよ」
「……」
「携帯で連絡でもされると困るんでね」
「勉強になります」
原がそう言って木村に頭を下げると、そのまま二人は従業員の出勤を待つため店の前に張り付いた。
14
飯島めいの過去の動静を念のために確認する作業のような捜査を続けている田所刑事は、その後、二度愛知県刈谷市を訪れていた。
当初容疑者の一人ではあったが、ひ弱そうな女性で動機も見当たらず、時間的にも犯行は難しいと思われることから、飯島は本部の捜査線上からますます遠ざかりつつあった。
ただ、飯島には、事情聴取中に見せた態度の豹変ぶりという漠然とした疑問が最後に一つだけ残っていた。
その疑問を解くために飯島の病歴まで調べることになった田所は、個人のプライバシーを強く侵害する聞き込みであることから慎重に行動していた。
最初の出張捜査では、生家の近隣の住民や探し出した元同級生らにそれとなく話を聞こうと骨を折った。しかし、なかなか有力な情報を得ることは出来なかった。そのため、田所は二度目の来訪で直接関係者への聞き込みを敢行した。