警察手帳を差し出しながら丁寧に頭を下げた。

「飯島です。娘のこととか? 何でしょう?」

飯島利彦社長は、あらかじめ調べた紳士録では六十六歳のはずであったが、豊かな頭髪や肌の色つやからは四十代と言っても通りそうであった。若い秘書との再婚の情報もなるほどと思われた。

「ご存知とは思いますが、お嬢さんが勤められていた会社の社長が亡くなられるという事件がありまして、その件で伺いました」

「カズコブランド社ですね。はい、知ってますが。あの事件に、娘がなにか関係を?」

世界的服飾デザイナー国枝和子の殺害事件は、発生から二ヶ月半あまり経った今でもしばしばワイドショーで取り上げられ、様々な憶説を生んでいた。

この間、警察は関係者全員の情報を広く集めるというふうを装って飯島めいをはじめとする特定の容疑者の名前が流布しないように努め、それに成功していた。

飯島社長は、娘のめいから事情聴取を受けたことはもちろん国枝社長に可愛がられていたことなども聞いていない様子で、娘が事件と関係していることなど夢にも思っていないふうであった。

「あ、いや。被害に遭われた国枝さんに関係のあった方々を全員調べさせていただいています。まだ、犯人が特定出来ていませんので、どんなわずかな情報でも欲しいということで」

田所は、関係者の末端である飯島めいあたりまで話を聞く順番が回って来たというふうに言った。

次回更新は5月31日(土)、22時の予定です。

 

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