「あの連中はあの連中で仁義を守ってるんだ。客の秘密を守ろうとしてとぼけているんだよ」
「はあ?」
「本当に見たことがなかったら、知らないとはっきり言うだろう」
「でも、記憶が曖昧だからあんなふうに言ってるんじゃないですか?」
「記憶に残らないくらいの客なら知らないで通すさ」
「じゃ、何であんな言い方を?」
「客の秘密をバラさないという仁義を守りつつ、男が店に出入りしていたことがいずれ分かった時に嘘をついていたと非難されないように知恵を働かせているんだよ。あの時ははっきり思い出せませんでした、忘れてましたってね」
「どちらにも顔が立つように?」
「っていうか、自分たちを守るための方便というとこかな。あの連中もあの連中で大変なんだよ」
「気が付きませんでした。すみません」
「別にあやまることはないよ。聞き込みの要領もこうしてだんだん覚えていけばいい。しかし、そうすると、この男はジョセフと関係があった可能性が高くなり、当日もジョセフの部屋に出入りしたということで、この事件とは関係なくなるな」
「ええ。でも、まだはっきりしたわけじゃないですよね」
「もちろん。これで目星はついたので、後は従業員を落とし、本人につないで決着をつけよう」
「でも、従業員も同じじゃないですか? ママさんからあらかじめ注意されれば同じように答えるんじゃないかと思いますが」
次回更新は5月30日(金)、22時の予定です。
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