「何ですか? 確認したいことというのは」
「前回、署の方に来ていただいた際、最後にごたごたしたため、きちんと確認出来なかったものですから。お腹立ちかと思いますが、田代さんに似た人物の写真を覚えていらっしゃいますか? 我々の勇み足で、田代さんではないかと申し上げてしまった写真です。どうですか? これ」
そう言いながら、宇佐見は内ポケットに用意していた写真を田代の目の前に急に差し出した。
田代は、宇佐見のその動きにぎょっとした様子を見せたが、写真にはちらと目を走らせただけでまともに見ようとしなかった。
「もちろん、田代さんではないことは分かりました。今のところ、この人物が誰であるか大変重要になっていまして。国枝さんに関係のあった全ての方に、この人物に見覚えはないかと改めて聞いているところなんです。田代さんもカズコブランド社に時々出入りされていたようですので、どこかで見た覚えがないか是非もう一度見ていただきたくて参りました」
田代は、もう一度、ちらと写真に目を走らせると、関心もないというように首を振った。自分に似ていると言われたことを腹に据えかねている様子で、暗に協力する気はないと言っているようだった。
写真の人物を見た際の田代の反応をもう一度確認したいと勢い込んでやって来た宇佐見と佐伯の期待は外れた。
しかし、田代がまともに写真を見ようとせずあまりにも関心を示さない様子に、宇佐見はまた逆に疑念を持った。考え過ぎかもしれないが、やはり何かを知っているのではないかという思いが消えなかった。
「間違いないでしょうか?」
宇佐見はわざと写真を田代の目の前に掲げてもう一度念を押したが、田代は写真を見る前に首を振った。本人の疑惑が晴れているためこれ以上の追及は出来ない。
「分かりました。この人物をなかなか特定出来ませんので、近々、公開捜査になると思います」
「公開捜査?」
次回更新は5月29日(木)、22時の予定です。
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