「はあ、私はその態度の急変については見なかったもんですから、何とも分かりませんが。ただ、そのことと関係するかどうか、ちょっと気になることがあるんです」
田所が、刈谷を訪れた際に探し当てて訪ねた中学時代の同級生によると、中学二年の夏休み明け頃から飯島めいの様子が変わったとのことであった。
ちょうど両親の離婚と父親の再婚というつらい出来事が続いた頃であり、当然の反応として取り立てて不審なこととは思わなかった。
しかし、その際、病院通いで欠席や遅刻が以前より増えたという話があり気になった。詳しく聞いてみると、その同級生の知る範囲では、中学入学当初から病院通いで定期的に欠席や遅刻があったということだった。
「何の病気だったんですか?」
草薙が聞いた。
「それは、知らないということでした。ただ、神経の病気といううわさはあった気はするが自分の記憶違いかもしれないし、本当のことは知らないということでした。今のところは本人に知れたりしても困ると思って非公式に聞き回っていますので、それ以上突っ込めないでいます。神経の病気と言っているのが精神の病ということであれば、気分の変調で態度が急変することもあるかもしれませんね」
「確かに気になりますね。あの大人しそうな子が急に人が変わったように見えましたからね。珍しいことじゃないなんて若い連中は言ってますが、どうもひっかかるんですよ。飯島には動機となる金銭関係の問題もなかったので、事件とはあまり関係ないことかもしれませんが、もうちょっと調べてもらえますか?」
「分かりました。乗りかかった船ですから」
事件とは関係ないかもしれないという人のやる気を削ぐような草薙の言葉を特段気にかける様子も見せず、田所刑事は快く捜査の継続を承知した。
「二度も事情聴取をしているので、飯島自身も自分が被疑者とされている可能性は自覚しているはずです。シロならシロで問題ないわけだから、そろそろ家族の聴取も含め、もっと突っ込んでもらってかまいません。よろしくお願いします」
草薙は、いつものように田所刑事に頭を下げた。