海智はその後気を失うように一旦寝入ってしまったが、午前六時には目を覚まし、四〇二号室のドアをノックした。ソファに横になっていた金清が眠そうな目を擦りながら身を起こした。

「何かありましたか?」

海智が恐るおそる訊ねた。

「ああ、いや、何事も無かったよ。やっぱりソファではよく眠れないな。高橋の方はどうだ?」

「何事も無いようです」

「そうか」

海智はベッドで眠る梨杏を遠巻きながら注意深く確認したが、いつもの通り変わった様子はなかった。さっき見たのはやはり悪夢に過ぎなかったのだとその時やっと一息ついた。

「昨夜考えたんだがね。やはり梨杏はピクリとも動かなかったよ。俺にはどうしても梨杏が歩いたとは信じられないんだ」

「僕達が嘘をついたと言うんですか」

「いや、勿論君達のことは信用しているよ。だが、この世には科学では説明できないような不思議なこともあるんじゃないかと思ってね。梨杏が受けた地獄のような苦しみを考えれば、生霊になってでもあいつらに復讐したいという怨念があっても不思議じゃない。それがそういう姿になって現れたんじゃないかと思ったりしてね。でもそう思うと親として何もしてやれない自分が情けなくてね」

金清は眉間に皺を寄せ沈鬱な表情で言った。

「いや、すまんな、ついメランコリックになっちまって。とにかく今夜まではここに泊る。今日は日曜日だからもうすぐ経子が来るからそろそろ引き上げた方がよさそうだ」

金清は鼻をすするとテーブルの上の紙コップなどを片付け始めた。

次回更新は6月1日(日)、11時の予定です。

 

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