【前回の記事を読む】他の容疑者の捜査が進む中、忘れられかけていた飯島めいの存在。しかし、二人の刑事には簡単に捨てきれない違和感が残っていた
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田所は、会社に提出された飯島の履歴書の住所を訪ねたがそれは以前に住んでいた住所で、入社後半年ほどして引っ越しをしていた。
田所は、隣近所の聞き込みでなんとか引越し業者を探し当て、そこからようやく飯島の新しい住居に行き着いた。
「前の住まいもなかなか豪華なマンションで驚きましたが、今度はさらに高級そうなマンションで、自分なんかコンシェルジュとかいう管理人を訪ねるのも気が引けましたよ」
草薙は田所刑事の報告を受けていた。
「渋谷の南平台ですか。確かに高級そうですね。一人で住んでるんですか?」
いま部下ではあるが、年上のベテラン刑事の田所に対して、草薙の言葉遣いはいつも丁寧だ。
「はい。まだ今のところ本人には接触しないようにしていますが、コンシェルジュとかいうその管理人や仲介の不動産屋の話から、独り住まいと考えていいようです。賃貸名義も彼女一人になっていますし」
「賃貸か。南平台の豪華マンションなら家賃、相当高いでしょう」
「不動産屋によると、彼女の部屋は家賃だけで月二十万は下らないそうですよ。自分の給料だったらとてもやっていけませんね」
田所が、大仰に目の前で手をひらひらさせながら言った。
「いや確かに。我々にはとてもとても、ですね。しかし、飯島めいの給料はそんなに良かったんですかね」
「会社で確認しましたが、ちょうど家賃くらいの手取りだったようで、生活費まで考えると、とてもそんな所に住めるような給料じゃないとのことでした」
「どうして生活していたんですかね。副業でもやっていたんでしょうか」
草薙が、眉根を上げて疑問を口にした。
「自分も気になって会社の連中に聞いてみたんですが、社長に気に入られていたぶん仕事も結構忙しそうで、とても副業をするような余裕のある様子に見えなかったということです」
「何か違和感がありますね。うーん、金銭関係? ひょっとして、飯島めいは国枝から金銭の援助を受けていて、そこでトラブったということはないでしょうか?」
田所の意見を求めるように草薙が言った。
「自分も、その可能性があるんじゃないかと思っているところです。本当に副業をしていなかったかどうかや生活の状況について聞き込みで絞ってみようと思っているところです」
「金銭トラブルによる怨恨。動機としては十分ですね。引き続きよろしくお願いします」
草薙はそう言うと、決まり事のように部下の田所に頭を下げた。