【前回の記事を読む】前6世紀後半に起源をもつディオニュソス劇場。神官やポリスに貢献した者だけが許されていた特別席に座ることができた!
II 遺跡ガイド
1. アテネ市内とピレウス
アゴラ
〇スパルタ兵士の楯
ストア・ポイキレには、「アテネ人がラケダイモン(スパルタ)人から、ピュロスから」と銘文された「スパルタ兵士の楯」が奉納されていました。この丸楯はペロポネソス戦争さなかの前425年のピュロス(スファクテリア)の戦いで、アテネ軍が投降したスパルタ人から捕獲した戦利品です。
ちなみに、この丸楯はヘファイストス神殿南側の貯水井戸の蓋に転用された状態で発見されました。


〇ストア・バシレイオス(王の列柱廊)
アゴラの北西端に、1970年の発掘調査によって、「ゼウスのストア(ゼウスの列柱廊)」の北側に隣接して、東を正面とする「ストア・バシレイオス(東西7.6m、南北20m)」が姿を現しました。
同時に、伝アリストテレス『アテナイ人の国制』(第7章第1節と第55章第5節)に詳述されている、アルコン(最高役人)が宣誓の際に使用したとされる「アルコンの石」が発見されました。
ちなみに、このアルコンの石(0.95m×2.95m×0.4mの石灰岩)は、ストア・バシレイオス建設時(前480年以降)にはすでに現在の場所にあったとされています。
このストア・バシレイオスには、伝アリストテレス『アテナイ人の国制』(第7章第1節)によれば、前6世紀アテネの政治改革者ソロンの法律を記録したキュルベイス(木製の回転板:異説有り)が置かれていたと伝えられています。
ストア・バシレイオスは、前6世紀末、アゴラにおける最初のストアとして建造されたものです。主として祭祀に関することを司る、バシレウス(王)と呼ばれる高位の役人の執務場所であった列柱廊です。前4世紀に改造されて、南北両端の正面東側に張り出しの翼部が増設され、中央前方にテミス(掟)女神の大きな石像が据えられました。
現在、テミス女神の胴部は回収されて、アゴラ考古学博物館(1階柱廊の北端寄り)に展示されています。また、このストア・バシレイオスは、ソクラテスが裁判にかけられた際に、彼が出頭して予審が行われた場所と伝えられています。

南北両端に張り出しの翼部が増設されて改造された新しい神殿(前300年頃)です。中央部にテミス像(前330年頃)があります。