【前回の記事を読む】人生で今でも心に残っている三通の手紙。父の期待に応えようと決意する私だったが…東京で待ち構えていた現実とは

第三話 三通の手紙

ラブレター

ほぼ毎日会っておしゃべりするようになっていたのに、私は口ではどうしても伝えられないことを書いて渡した。おしゃべりが得意でない私は、書くほうが気持ちが伝わると思っていたのかもしれない。現在のように携帯もSNSもない時代、手書きの手紙の交換など今では考えられないことである。

その当時彼は教員の傍ら、学校放送に出演したり、放送台本を書いたりかなり忙しかった。私へのラブレターも、自分専用の原稿用紙に万年筆で書かれていた。「これだけ原稿書いたら、原稿料かなり貰えるんだぞ」と冗談のように言っていた。肝心の内容はよく覚えていないが、自分の生い立ちのようなものが書いてあったと記憶している。

中身は完全にラブレターだった。それまで付き合ってはいたが、私は何が何でも一緒にいたいと考えていたわけではなかった。が、この一通の手紙が私の心を捉え、その後の運命を変えてしまった。嬉しくて何度も読み返した。

当時一緒に住んでいた姉に、隠していたのにこの手紙を見つけられてしまい、即親元に報告の事態となった。それからのゴタゴタ騒動の顛末は、今でも私の心の中でくすぶっていて忘れられない。両親には多くの心配をかけてしまった。

そんな思い出と共に、私の人生のターニングポイントとなったラブレター、忘れられない手紙で「彼と一緒に生きること」を決意させ、それからの私の生き方を方向づけた一通である。