【前回の記事を読む】ついに事情聴取へ――離れた場所で目撃情報があった田代だったが…果たして事件の核心に迫れるのか
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「いや、そういう意味じゃなくて。デザイナーとしても活躍されていて、国内や海外のあちこちにしょっちゅう行かれてますから。ほとんど社にはおられなかったんじゃないですかね」
「社にはほとんどいなかったので、二、三回しか会っていないということですか。社員の皆さんにお聞きすると、国枝さんはけっこう社にいたようですがね」
「社長室に行くことはなかったですから。それに、この前言いましたが、今は、そうですね一年ほど前からですが、取引はしていませんので。ただ、あれからもう一度考えてみると、正確には四回ほどお会いしています」
「ほう、四回とは具体的ですね」
「ええ、全て思い出しました。店の立ち上げに際して取引をお願いに伺ってお会いしたのが最初でした。二回目は取引をしていただくことになった後で、お礼に国枝社長を銀座のレストランに招待をした時でした。あとは、カズコブランドさんが毎年取引先を招待されるクリスマスパーティーの席で挨拶をした程度ですが、二回お会いしています」
「そうですか。銀座で一緒に食事をされたこともある。多少は親しい付き合いもあったということですね?」
「とんでもない。取引出来るようになったら、一度社長を招待するのが慣例だと同業者から言われましたから、仕事だと思ってご一緒しただけです」
「なるほど。そうしますと、仕事関係以外でお会いになることはほとんどなかったということですね?」
宇佐見は、微妙な言い方で揺さぶりをかけた。