【前回の記事を読む】「すぐには行けません」防犯カメラに映った人物に酷似した男。任意の事情聴取を依頼すると、芝居がかった態度で答えた。

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「そろそろ写真の公開捜査はどうでしょうか?」

秋月班に配属されている木村洋平刑事が植村管理官を見て言った。木村は本庁捜査一課から派遣の刑事でまだ若いが、現場主義の秋月に鍛えられて捜査経験は豊富だ。

「うーん、そろそろ踏み切る段階かもしれないな。ただ、ほかの住人のプライバシーに関わるようなことになると面倒な事態になるし」

「しかし、初動の聞き込みではこの人物を知っている住人はいませんでしたから、やはり国枝を訪ねていた人物じゃないでしょうか。ですから、写真の公開も問題になることはないと思いますが」

木村が植村に迫るように言った。

「これだけ慎重に出入りをして人に知られないようにしているということは、国枝以外の住人を訪ねていたとしても、その訪問先の人物もこの男のことを知られたくないと思っているんじゃないんですか?」

神保署長が、またしても意外に鋭い疑問を口にして一同を見渡すとさらに続けた。

「要するに、訪問先は実際には国枝さん以外の人物だとしても、その人物が写真の人は知らないとシラを切っている。そういうことはないですか?」

この問いに、木村が神保の方を見ながら言った。

「初動の聞き込みの際、知らないと偽証した住人がいる可能性もあるんじゃないかということですか?」

それを聞いた秋月が、戸惑った様子を見せながら言った。

「住民全員にこの写真を見てもらって確認をしました。しかし、偽証はなかったかと言われると、確かに、それはないと断定することは……」