【前回の記事を読む】被疑者にはアリバイと思しき証言が浮上。それでも疑いをを捨てきれない刑事がとった行動は。

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ジーンズにえんじ色のセーターを粋に着こなしている。確かに防犯カメラに映った人物に似ている。眼鏡とカツラで変装すれば同一人物だ。宇佐見は直感的にそう思った。

「田代ですが」

「突然に申し訳ありません。警視庁の宇佐見です」

「同じく警視庁の佐伯と言います」

二人は、警察手帳を出すと丁寧に頭を下げた。

「はあ、何でしょう?」

田代はいぶかしげに二人を見ながら言った。

「ご存知かどうか、一月六日から七日にかけ世田谷の西城署管内で事件がありまして。被害者はデザイナーの国枝和子さんですが、田代さんもお知り合いだったと聞いたものですから、何か情報を得られればと伺いました」

佐伯刑事は、宇佐見が国枝の名前を出した瞬間の田代が浮かべる表情のいかなる変化も見逃すまいと、じっと田代の顔を観察していた。

「ああ、事件のことはもちろん知っています。あれだけテレビでも騒いでいますから。でも、国枝さんのことはあまり良く知りませんが」

「そうですか? カズコブランド社にはよく出入りされているんじゃないですか?」

「はあ、そうですが。カズコブランド社には服の買い付けに時々行ってましたが、国枝さんに会うことはありませんでしたし、最近は取引もしていません。そもそも、国枝さん、社長さんですから、私なんかが会うなんてこと滅多にありませんよ。以前に二、三度お目にかかったことがあるかどうかです」