この日の捜査会議では、この第三の人物に議題が及んでいた。

「相当慎重に出入りをしていたと思われます。マンションの防犯カメラには、当日もマンション入り口まで駅方向から歩いて来た様子が映っていますが、なにしろ遅い時間で目撃者もいません。出入りをしていたとしたら、この人物はいつも遅い時間だったと思われます。手段も、近くまで車で来て、そこから歩いていたんじゃないでしょうか」

第三の人物の捜査チームを率いている秋月義男刑事の報告が続いている。秋月も警視庁刑事部捜査一課の刑事で、宇佐見や草薙の三年先輩に当る。

役職や出世にはまるで興味がない様子で現場百遍を信条にしているが、人の心を読む天性の才能があるようで、落(おと)しの名人とも言われている。

「帰りは朝だろう。帰りも見られていないのか? それに、車なら近くの駐車場を使っていたんじゃないのか?」

管理官の植村が疑問を口にした。

「朝といっても、この日も五時前ですからまだ暗いですし、ほとんど人通りもありません。近くには防犯カメラの設置されていない個人経営の小さな駐車場もあります。それに、深夜帯ですから路上駐車もおとがめなしなんで」

秋月が答えた。

「確かに、出入りの様子を見るとマンションには何度も来ているように見えますね。それなのにこれだけ手がかりがないのは、マンションの出入りには相当気を使って周りに気付かれないようにしているとしか思えませんね。ますます怪しい奴ですね」

この日も、神保署長が周りを気にする様子もなく、のんびりとした言い方で私見を披露した。

次回更新は5月19日(月)、22時の予定です。

 

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