「個人的に会ったというようなことは?」
「えっ、私がですか?」
これが芝居だとしたら、相当のタマだと宇佐見は思った。
「突然伺った上に不躾(ぶしつけ)なことを言って申し訳ありません。今は関係者全員に詳しく事情を訊いている段階ですから。親しかったかどうかは別にして、カズコブランド社に直接出入りされている皆さんに事情を訊いて解決につなげたいと思っているんです。
もう少し詳しく事情をお伺いしたいので、皆さんにもお願いしているんですが、一度、署の方に来ていただけませんでしょうか。手がかりになるようなもので、見ていただきたいものなどもありますので」
防犯カメラに映った写真のことをこの場で話すつもりはなかった。最後に目の前に突き出して観念をさせたかった。
「私、疑われているんですか。勘弁して下さいよ」
「いやいや、参考人ということです。関係者の皆さんに事情を訊いている段階ですから。もちろん、任意ですのでご無理にとは言いませんが、何もなければご協力いただけませんか?」
「何かあるわけないですよ。いいですよ、いつでも行きますよ。ただ、今日から関西に出張しますから、すぐには行けません。来週でもいいですよね」
田代は、猛烈に腹を立てているように振る舞った。それがあまり大仰であるため、宇佐見にはかえって田代が芝居をしているようにも見えた。
5
防犯カメラの映像が鮮明であったことからすぐに判明すると思われていた第三の人物の特定も、思いのほか難航していた。合鍵のICチップを使ってマンションのオートロックを慣れた様子で解錠していることから、しばしば出入りをしている人物と考えられた。
しかし、マンション内およびその周辺の聞き込みでは、その写真の人物を見たという証言は得られなかった。また、西城公園駅周辺の防犯カメラや近くの駐車場の防犯カメラにも、さかのぼれる範囲に同一人物と思われる映像はなかった。