「よし、慎重を期してもう一度全住人に当ってくれ。写真を見せて、マンション内で目撃したことはないかどうかを再確認すると同時に、受け答えに怪しい点はないか集中してくれ」
植村が、秋月班に向かって念を押すように指示をした。
「それこそ、しつこく聞くとプライバシーの侵害とかなんとか言われることはないでしょうか? 初動では素っ気なくて拒否に近い人もいましたが」
秋月が躊躇するように言った。
「その人なんか怪しいですね。そういう場合、最後に、近々写真を公開すると言ったらどうでしょうか。マスコミで騒がれることにもなり、嘘をついている人は困ると思いますよ」
神保署長がのんびりとした口調だが、またまた的を射た提案をした。
6
田代正樹が参考人としての事情聴取に応じて西城警察署を訪れたのは、宇佐見刑事らがブティック・ワンを訪れた翌週の、それも週半ばを過ぎた寒い日であった。
前日、関東地方に今季二度目の降雪があって交通網が乱れたため、田代は予定を一日遅らせてこの日西城警察署にやって来た。
不確かではあるが、犯行のあった日に他の場所で田代を見たという目撃情報があることから、捜査本部はこの聴取にはあまり期待を寄せてはいないという雰囲気だった。
しかし、現れた田代を見た捜査員たちは、防犯カメラの男と田代があまりに似ているため、にわかに色めき立った。