田代は、先日の宇佐見刑事らの質問や態度から自分が疑われていることを察している様子だった。そのことで依然腹を立てているふうには見えたが、疑われていると自覚している割には自信のある落ち着いた態度で取調室に入ってきた。
「お忙しいのにすみません。関西出張はいかがでした?」
取調室には、先日店を訪れた宇佐見刑事が、書記役の佐伯刑事と待っていた。寒々とした雰囲気の取調室も、エアコンが効き過ぎているのか厚着でやって来た田代には蒸し暑く感じられた。
「はあ、特にどうってことは」
田代は、先日店にやって来た同じ刑事による事情聴取にほっとした様子を見せたが、疑われているという思いからか依然不機嫌だった。
「寒い中、申し訳ありません。今日は、少し詳しく事情を聞かせて下さい」
宇佐見は、田代の不機嫌さにはおかまいなく聴取を開始した。
「先日、国枝さんのことはあまり知らないとおっしゃってましたが、カズコブランド社とはいつ頃から取引があったんですか?」
「うーん、五年くらい前からですかね。うちの店を立ち上げた頃からですから」
「五年。この間、国枝社長には二、三回しか会っていないということでしたが、五年も取引があって、たった二、三回ですか」
「社長に会うことなんか滅多にありませんよ。国枝さんも忙しくて、ほとんど会社にはいらっしゃらないですから」
「国枝さんが忙しい? 国枝さんが忙しいことを個人的になにかご存知なんですか?」
宇佐見は、早速探りを入れた。
次回更新は5月20日(火)、22時の予定です。
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