「ほとんどもなにも。仕事以外で会うことなんかありませんよ」

田代は敏感に反応した。

「ところで、この前も、また先ほども、一年ほど前から取引をしていないとおっしゃいましたが、それはどうしてですか? 何かトラブルでも?」

「いや。単に商売上のことで」

「商売上のことと言いますと?」

「……もう聞かれているんじゃないですか? カズコブランドの商品は高すぎるんで、少し安くしてもらいたかったんですが、それは出来ないと言われて。こっちも商売ですから、高くて売れない物を仕入れるわけには行かないので取引を止めました」

「田代さんの方から取引を止められたんですか?」

「……ええ、まあ」

「これは、カズコブランド社のある社員の方から聞きましたけど。うわさかもしれませんが、田代さんが社の商品を安売りしたため国枝社長が怒って取引を止めたとか。田代さんのおっしゃっているのと違いますが」

宇佐見は、田代が一瞬間を置いて答えた様子を見て、追い詰めるチャンスとばかりに社員から得た情報をぶつけた。

「やっぱり聞いているじゃないですか。誰が言ったか知りませんが、本当のことを知らない人でしょう。安くしなければ取引を止めると、先に言ったのはこっちですから」

「田代さんが先に……ということは、国枝さんからも実際に取引停止の話があった」

「ああ。私の申し出に何も言ってこないから、こっちで勝手に値下げをして売ったら、その後でけしからんと」

「それは、むかつきますね」

宇佐見は、わざと軽い調子で言った。カズコブランド社から取引停止を言われたことで田代が国枝を恨んでいると睨んだ宇佐見は誘い水をかけたのだ。