日本人にはフレンドリーな感じだ。何故だろう?と井原は不思議に思ったが、それはほどなく理解することとなる。

七洋商事のアルジェオフィスが手配してくれた男が、「ムッシュ・イハラ」と書いたボードを持って待っていた。

オフィスの専属運転手で、シャドリという名前だそうだ。空港駐車場へ行くと、やはりフランス領だった名残りでフランス車のルノー、プジョーが多い。

その中でひときわ高級感を漂わせている黒塗りのシトロエンDS(デーエス)が目に入ったが、これが社有車だそうだ。

乗り込んでシャドリがエンジンを始動すると、ハイドロ・ニューマチック・サスペンションが作動し、車体がふわりと浮いた。   

空港から西へ地中海岸を走る。はるか正面の小高い丘の斜面に白い街並が夏の強い日差しに輝いている。

空の青、山の緑、そして白い街のコントラストがあざやかすぎる。井原が描いていたアフリカのイメージとはかなり違った。

「シャドリさん、真正面に見えるのはアルジェの街並みかい?」

「シャドリと呼んでください、ムッシュ・イアラ」

フランス語ではHを発音しないからイアラとなる。

「じゃあこれからシャドリと呼ばせてもらおう、私の名前はイアラではなくイハラだよ、発音しにくいだろうが頼むよ。しかしすばらしい眺めだなあ」

「はい、ムッシュ・イハラ、あれがアルジェです。フランスが作った街です。あの丘の中腹に見えるひときわ大きな建物が、アルジェリアの独立祝いにエジプトのナセル前大統領から贈られたオテル・オラシイです。建設の途中で建物が傾いてしまったのでやりなおしたりして、まだオープンしていません」

ホテルもHは発音せずオテルとなる。

空港から四十分ほどして、井原が連れてこられた所はそのオテル・オラシイの脇を抜けた丘の上にある二階建ての家であった。エルビアールという町だそうだ。

 

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