【前回の記事を読む】彼は「霊魂や神さまを本気で信じている」と言った。スピリチュアルな考えを物怖じせず言い、「神頼みは無意味な行いと思う?」と…

第一部

二 神を知る

私は弱いから、自分は弱く、守られたいと思っていると伝えると、頷いて

「弱いか……」と呟き

「そもそも日本は死について、タブー視するところがある。まぁそれだから信仰について人に話せないよね」と笑っていた。

くすんで見えていなかった心の鏡が徐々に磨かれていくように、悩みが嘘のように消え、孤独感から深い安心感を得て解放されていく。人は肉体をなくし初めて本当の愛を知ることができる。照史は個人的にそう思っていると言った。

私は正直にちょっと難しいと伝えたが、彼は何も否定しなかった。「僕もいまだ全て理解していないし私は何も知らない。ただそう思えば良い。あれこれ思考しないで」と微笑んだ。

コース料理も進み、物理的に食事が美味しく心も満たされ、アルコールは飲んでいないのにほろ酔い気分だった。本日の希少部位はミスジだという。それは綺麗なピンク色の繊細な霜降り肉で、はっきり言って部位などわからないが、それが美味ということは見て取れた。

私はこの美味しい食事と彼との出会い、似通った価値観で、何から何まで幸せに思う。コース料理の二時間半が瞬く間に過ぎていた。伯父は日頃から、こんな良いお肉を食していたのかと、ため息まじりで話した時、きっと私が恨めしそうな目をしていたのだろう。

それは、ほぼ仕事の延長で、日常では無いでしょうと、慌てて尊敬する上司を必死で庇う姿は本当に優しいと思う。帰り道も私の歩幅に合わせ、ゆっくりと歩いてくれた。駅までの道のりは堀と川の水面に映る高層ビルとのコントラストが映えている。

照史から週末の予定を聞かれ、伯母の具合次第で外出もできると答えた。私は次の約束に期待してしまう。照史は時々ボランティアで教会に行くと話し、教会付属の施設で自分が育った場所。差し支えなければ一緒に行かないかと誘ってくれた。

勧誘とか布教ではない、と前置きした上で牧師先生のお話も一興だと言った。自宅前に到着するとお互い向き合って、気持ちを確認できた。あえて言葉にしなくても伝わる。心が思春期に戻った様で、照史も同じだったのか、目が合ったり、逸らしたり、頻繁だ。

その夜は別れたが、ずっと彼の全てが心から離れない。私は幸福感で満たされた。そしてこれがずっと続きますように。何も疑いもせず、永遠だと信じていた。