【前回の記事を読む】食後、私は次の約束に期待してしまう。似通った価値観の彼と過ごす時間は幸せで、疑うことなどなく...
第一部
二 神を知る
娘は病気だからと考え、あまり外出もさせていないらしい。全く自由を奪われた籠の中の鳥になってしまう。
不気味だと思うかもしれないが、照史は信仰するだけなら、否定できないし、そもそも悪魔は映画に出てくる、あれ、のことではないと、少し笑って話してくれた。それは名目上で、実は物質的に存在するものの総称だと教えてくれた。そして我々が普段考えたことない事だと言い、私が知らないことを一切責めなかった。
どんどん彼の言葉にのめり込んでいくのがわかった。彼の実直さと新しい世界、言い換えれば心の情報世界を見せてくれる事に惹かれている。哲学には詳しくはないし勉強不足だけど、ものすごく簡単に言ってしまえば、物質的な物や生き方を、肯定するという考え方だと教えてくれた。
そして私に出来る事で何より重要なのは、少女を問題のある人と見ない事だと。私がそれならできそうだと伝えると、心配しないで、人の生命力を信じる事に尽きる。自分は教会でお祈りするから、少女の為に祈るよと、話した。
照史は前向きな思考の出来る人だ。少数派の意見も否定しないし、何より物事を善悪で判断しない。私の内にある宇宙、見えない心の声を、言葉という道具を使って正しく表現してくれる。
約束の週末は台風一過で蒸し暑い残暑の朝だ。伯母が、朝食の支度をしながら私に声を掛け門出を祝福してくれた。レースのワンピースがよく似合っていると褒めて、私の頭を優しく撫でた。
伯母はまだ、寂しさや悲しみが完全に癒えていない。ただ、この世に残された自分は、しっかりと、夫の分まで生きていく、そう決意した。改めて私は伯母の幸せを願い、自分も幸せになると誓いたい。
照史から一報あり、待たせたら申し訳ないと、はやる気持ちを抑えとにかく走った。そして遠目で信号待ちの照史をすぐに見つける。その佇まいは、雑誌の切り抜きのようだ。多くの女性が振り返る。少し手前で、乱れた髪を整え平静を装い、手を振りながら照史に声をかけた。呼吸を整えていると、彼が電話なんかしたから慌てたのかと心配した。
私は早く会いたかったと伝え照れから心臓が止まりそうだ。お互いに、目を逸らし、今日も緊張を隠せなかった。