電車の中は混雑していたが、彼が人を遮るように私の前に立ってくれた。守られている安心感に包まれる。二駅で降りてそこから大きな通りを少し入った。教会は住宅街にあり、一見するとそれとはわからない。時を経た姿に感動し、建物から発せられる色合いや雰囲気でその歴史を語れるものだと思った。
奥から主任牧師の寺田幹雄が現れた。初老の男性で、私のネックレスと同じ、マラカイトの指輪をはめているのが印象的だった。
手土産を差し出すと、気遣いに感謝してゆっくりしていってほしいと、丁寧に挨拶をしてくれた。それから彼の案内で室内を回った。古くても良いものが揃っている、そんな印象でそれには心の豊かさを感じた。
長い廊下を歩き福祉施設に入る。そこでは、小学低学年から高校生まで生活しているのだと聞いた。照史が設備の職員から頼まれた用事を済ませる間に、私は宿題を見てあげたり、折り紙をしたりして子供たちと終始楽しく過ごせた。
外に目をやると、建物は中庭を取り囲むコの字型の構造になっている。寺田が私に、教会は初めてかと声をかけた。素直に私は何も知らないと答えると、そう受け入れるだけで良いと微笑んだ。
中庭で洗濯物を干す人や、家具の補修作業を進めている人達がいた。しばらくその様子を窺っていたが、黙々と作業に打ち込んで、無駄話をしている雰囲気はない。それに少し違和感を感じたが、あの方達は施設の職員かと尋ねると、そうではなく、彼らに就労の場所を提供していると言った。
できることは沢山ある。彼らは服役後一旦社会に出ても、居場所を見つけられなかった人達だった。
「人生につまずいただけで、社会不適合としてしまったら、彼らの生き場所がなくなってしまうでしょう」
「世の中には色々な事情を抱えている方々がいらっしゃいますね。話では聞いたことがありました」
【イチオシ記事】「浮気とかしないの?」「試してみますか?」冗談で言ったつもりだったがその後オトコとオンナになった
【注目記事】そっと乱れた毛布を直し、「午後4時38分に亡くなられました」と家族に低い声で告げ、一歩下がって手を合わせ頭を垂たれた