それから、心と時間は比例せず日常が流れた。その日は珍しく診察が効率よくゆとりがあった。私は元患者について気になることがあった。まだ少女で個性的な風貌が目立つ子だったからよく覚えている。
街で見かけ何やら、うろんな男女数名と一緒にいた。それが気になって頭から離れず、何か良くないことに巻き込まれていないか心配だったのだ。そして、そのことを堀田に相談してみた。
少し考えていたがすぐに思い出したようだ。かつ、同時に患者の事は気にしない方がいいとつけ加えた。たとえ外で見かけても、声をかけられないし、既に当院には通院していない。
その患者は悪魔崇拝をしていたらしい。私はその事実を初めて聞いた。サタニズムというものだ。私には聞き慣れない言葉だったし大変驚いた。ただ、なんと表現したら良いのか、少女から醸し出される雰囲気が重たい。多くの人には観えない情報を私は少女から感じとっていたのだろう。
その夜に照史と電話で会話をし、私達はお互い心を通わせる事を欠かさなかった。そして信頼関係を築きどんどん仲が深まっていく。私が木曜日は定時で帰れると口にすると
「食事に誘うのは木曜日がいいですね」と明るい声で楽しそうだ。
「何を食べようか?」
思考するのもワクワクしかなかった。そんな些細なことでも私達には大切だ。さらに照史は私の微妙な変化にも敏感に気がついていた。
そしてひと呼吸置いた後「何かあったの?」いつもと声の色が違うと心配している。例の少女から発せられるエネルギーに影響を受けて、心が引き摺られていたからだ。
聞いてもらいたい出来事があるが、でも本当は口外してはいけないと、声を潜めて伝えると、守秘義務を負うと約束した。個人情報は出さずに、かいつまんで心配事を話してみた。
照史は、私の気持ちがわかると受け止めた上で、心配になるのはクリニックに勤めているからだと、具合が悪いことを前提として考えるから当たり前だと言った。その上で少女は病気でもなんでもないと、自分で思っているのではないかと言った。
私はとても理解が追いつかない。思いがけない言葉に、戸惑ってしまった。角度を変えて、思考した事などなく、それは固定観念に縛られているという事だ。
具合が悪い前提、私はそれの答えが知りたいと思った。照史は謝り、否定しているわけではないと言う。サタニズムも一つの考え方だが、周りの人達は世間体とか、迷惑をかけたら困るとかを気にしているかもしれないと優しく話した。その少女の言うサタニズムという言葉尻だけ捉えて、事件や事故を起こしかねないと親は心配している。
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