【前回記事を読む】「米粒ひとつ残ってねえ!」…これが最初のほころびだった。大塩率いる一党は静まり返った。米や貴重品が運び去られていたのだ。

鼠たちのカクメイ

土井が思いに耽っていると、使いの者が参上して報告した。

「御城代。西町奉行より援軍の要請が参っております。至急江戸の裁定を、と」

だが既に土井は戦装束を整えていた。いまも土井自身は遠眼鏡を手放さぬまま、小姓たちに甲冑を着けさせている。

「ふん。絃之助が気を利かせて引き延ばしを図っておるな。もとより有事の際は大坂城代に全権が任されておるわ。ほれ」

そう言って袂から無造作に命令書を取り出し、使いの前に放る。

「絃之助に伝えよ。俺が到着するまでに露払いをしておけ。そして鼠が群れたところを一匹残らず……焼き払え!」

大坂城代は、威勢よく葵の紋の入った軍配を振るった。

  

その坂本絃之助は、西町奉行所に届いた土井の命令書と伝言を確認して溜息をついた。

「露払い、か。待てと言うたり動け言うたり、難しいお人やな」

あたりを憚り、中筒隊三人にそっと声をかける。

「おい。飯も食ったこっちゃし、腹ごなしに行くで」

「へ。もう行きまんの? 確か焦らすいう……」