【前回記事を読む】帰宅すると、壊れた首輪が転がっているだけでピッポがいない。歩きと車で1時間以上近隣を探し回ったのに見つからず…
第一走者 ピッポ(ビーグル犬)
慌てて車を脇に止め、男性に声をかけた。
「すみません、その犬 …… 」
私の声を聞いて、ピッポが尻尾をありったけ振って、こちらに向かってきた。恰幅のよい男性は、厚手の黒い革のコートを着ているせいか額に汗をかいていた。
少しいかめしい顔、犬のリードは決して離すまいというように、二重に手首に巻き付けている。
「やあ、飼い主さんですか」
いかめしい顔がふわりと割れた。
「よかったぁ。派出所で預かってたんですが、手に負えなくて。いま本署へ連れて行くところなんです」
男性は警察官だった。犬は連行するので、本署まで来てくれと言う。本署は目と鼻の先にある。脇に止めた車を方向転換させて本署へ向かう私のほうが、時間がかかった。
本署の入口をくぐると、コンクリートの床にピッポはべったり座り込んでいる。その横で、黒いコートを脱いだ制服姿の警察官が、額の汗を手拭いでゴシゴシ拭いていた。