【前回記事を読む】私の長年の夢である「自分の犬」を飼うことが実現!たまたまドッグセンターにいたビーグル犬と目が合い、我が家にやってきたピッポ

第一走者 ピッポ(ビーグル犬)

お散歩大好き

夏の暑い日、田んぼが続く田舎道では傍らの川に飛び込んで、ジャブジャブ歩くのが常となった。田んぼに水を引く水路は、夏草に覆われている。蜘蛛の巣が張り巡らされているところを歩いて上がってくると、顔は蜘蛛の巣だらけ。その顔でこちらを見上げ、何ともヘンな表情を浮かべている。

「このもやもやしたものを、とってくれ」

いかにもそう言っているようで、人間が仕方なくまとわりつく蜘蛛の糸を手でとり除いてやる。蜘蛛の巣から解き放たれてスッキリすると、ピッポはまた気分よくいくらでも歩いた。あるとき、喉が渇いた人間が自動販売機で清涼飲料を買った。ごくごくと美味しそうに飲む人間をまじまじと見ているので、缶の底に残った液体をおすそ分けする。

甘いココアを飲んだときは、「おいしいっ」と目を丸くした。

冷えたジンジャーエールを飲んだときは、「何だこの味は!」と顔をしかめる。

まさに愛嬌があるというか、表情豊かに自分を伝えてくる。

自分を主張するという点で、どの犬も空腹であるときは必死で人間に訴える。が、ピッポは食事を早くしろ、とねだることはなかった。食べられるときにしっかり腹ごしらえをする主義らしい。

その代わり、朝の散歩が一番の楽しみらしく、時計よりも正確に五時三〇分に、「クウーン」と第一声をか弱く発した。

「そろそろ起きてよ」と言うように。

人間は眠い目で寝室の窓をたたき、「まだまだ」と答える。 次は五時四十五分に「ウワンッ」と強めの声を一つ発する。

人間は「もうちょっと待って」と答える。

六時ともなると、もう堪忍袋の緒が切れたように、「ワワワン、ワンワン」と立て続けに吠える。

人間はご近所に迷惑をかけてはならぬと、そそくさと起きだすというわけである。たいがい六時から七時ちょっと過ぎまで、約一時間の散歩が日課となった。

食いしん坊のピッポは、道の傍らに打ち捨てられた食べかけのパンなどを見つけると、即座にパクリと口に入れる。

時には、車に轢かれたぺったんこのカエルまでぱくついた。さすがにそれはダメとリードを引っ張って制止したが、時すでに遅く、くわえた口の端から干からびたカエルの足がのぞいている。ホラー映画の一場面のようだ。

ビーグルはもともと陽気な性格といわれている。ピッポは見事それを体現していて、散歩中楽しいことを見つけると、まさに足取りも軽くワワワンと吠えながらうれしそうに駆け寄った。散歩しているほかの犬と出会うと、クンクン鼻を嗅ぎ合って挨拶する。散歩をするのが楽しくて仕方がない様子で、連れている人間まで楽しくさせる犬だった。