翌日から親しい仲間と二泊三日の旅に行く予定になっていた。スーパーへ買い物に行ったのも、留守を預かるご主人の食事や犬の餌を調達しに行ったからだった。

犬好きとはいえ、ご主人は飼い慣れたバセット・ハウンドの面倒は見てやれるが、初めてのビーグル犬で、それもやたら食欲旺盛で元気いっぱいの若い犬まで面倒見ることは、とても無理だ、という結論に達した。

そこでMさんは、とりあえず犬を交番に届けることにした。旅行から帰ってきて、まだ飼い主が見つからない場合は引き取るから、と言いおいて。

交番に届けられたピッポはというと、人通りの多い交番の前に繋がれて、道行く人を眺めていた。

その日はいつになく人出の多い日で、多くの買い物客や観光客が歩いていた。中には犬好きの人が近寄ってきて、犬の頭を撫でる。犬連れの人が通りかかると、大きな声でピッポが騒ぐ。警察官は慌てて犬を制する。

これはどうやら腹がすいているのかもしれない、と警察官は三軒先のコンビニへ行き、自分の財布からお金を払って、パンを買ってきて与えた。パンはあっという間にピッポの胃袋に消えた。

少し落ち着いたようで、おとなしくなった。そこへ道を尋ねる人がきて応対をしていると、小さな子供が犬を見つけて駆け寄ってきた。子供は売り出しの店でもらったのか、風船を手にしていた。

ピッポは子供が大好きなので、尻尾を振って子供を迎えた。が、幸か不幸か、子供の持っていた風船が何かの拍子に、バンッと割れた。それに驚いたピッポは、大きな声で吠えた。

風船が割れたことにびっくりしたのか、犬の声を怖がったのか、一呼吸おいて、子供が「ワアッ」と泣き出した。

一部始終を見ていた母親は、さっと子供を抱き上げた。警察官は、犬が子供に食いついたのかととっさに思ったが、そうではないと親が否定してくれた。

そのおかげで、職務怠慢だの、警察官の目の前で子供が怪我をした、などと騒がれずに済んだ。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、巡回用の自転車に向かって、犬はオシッコをかけている。

 

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