「は、はい?」
「虎太郎さんの刑期が終わったら、また一緒に暮らすの?」
「はい。これでも夫婦ですから」ゆきは赤くなりながら答えた。
「これまで大変だったんだもの。これからは、幸せになれるといいわね」
「は、はい!」
「ありがとうごぜえます!」
ゆきは、その場に平伏した。隣の虎太郎も地響きをたてるような勢いでひざまずいた。
「おいおい、二人とも、そこまですることはないよ。早く立ちたまえ。監視の巡査もびっくりしているぞ」
竜興がそう言うと、虎太郎とゆきは、おずおずと顔を上げた。
千鶴のやわらかな笑顔と、いつもと変わらぬ竜興の微笑みに、二人はやっと立ち上がった。
「虎太郎さんは相撲界には戻れないの?」千鶴は、竜興を見上げた。
「うーん。残念ながら許可は下りないだろう」竜興が残念そうに言った。
「いや、それでいいんです。あっしはもう相撲部屋には近づきません。これからは、相撲でつちかった精神力と剛力で、人さまをお助けできるような仕事を探して、静かに生きていこうと思ってます」
そのとき、ドーンという爆発音が四人の体を揺すった。
「きゃあ! 何これ? 地震?」千鶴が竜興にしがみついた。
「発破だ!」
虎太郎が叫んだ。爆発音は二回、三回と続いた。
「避難したほうがいいな」
竜興の声に従って、四人は走り出した。
「すまねえ、竜興さま! 前々から花火師崩れの奴が、いつか監督官舎を吹き飛ばすって言ってたんだ。みんな、愚痴の類(たぐ)いだと思って聞き流していたんだが……」
「そうか。いくら囚人とはいえ、あんな人を人とも思わぬ扱いをされ続ければな……」竜興が言い終えないうちに前方でも爆発が起こった。
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