【前回の記事を読む】凄惨な拷問の末、全裸で吊るされた若い男の足元には大きな血だまりが。左目を潰され、失禁。刀身はそのまま男の下半身に向けられ……

紅の脈絡

エリスはようやく、うっすらと目を開けた。

「エリス。僕なら、ずっと君のそばにいたよ」

「本当?」

エリスは小さな手を伸ばして、ガイの手を握ろうとした。しかし、ガイはさっと手を引いた。

「お兄ちゃま?」

「すまない、エリス。僕はもう、君のその穢れのない手に触れることはできない」

「どうして? ……あ、わたくし、怖い夢を見ましたの。……お兄ちゃまが、お兄ちゃまが赤鬼になって、天井から吊るされている真っ赤な人を金棒で殴っているの……」

「ああ、そうだよ。僕は鬼になって人を殺した。もう、人間には戻れない」

「うそ! お兄ちゃまが鬼だなんて! お兄ちゃまが人を殺すなんて! エリスは信じません!」

そう言うと、エリスはしくしくと泣き出した。

「エリスさまに申し上げます」

爺やが、ベッドのそばで平伏した。

「爺や、なあに?」

「エリスさまにおかれましては、神の存在をお信じなされましょうか?」

「はい。わたくしは、どこかに神様がいらっしゃると信じています」

「エリスさま。お兄さまは、ご自分が鬼になったとおっしゃいましたが、それは違います。お兄さまのお心に情けをおかけくださった鬼神様が、お兄さまにお力をお貸しくださったのでございます!」

「鬼神様が……」

不安のために青い顔になっていたエリスの顔に、桃色が広がった。

「はっ! お兄さまが処刑した男は、何十人もの女性(にょしょう)の命を弄(もてあそ)んだうえ、あろうことか、フローレンスさまを死に追いやった男にございます!」

「まあ! では、あのお優しいフローレンスお義姉さまの仇を……!」

エリスはベッドから飛び降りた。

「ガイお兄ちゃま!」

「エリス……」

エリスは、まだ躊躇(ためら)う兄を無視して抱きついた。

「お兄ちゃま。フローレンスさまは、血のつながりはないけれど、わたくしのお姉さまです。本当のお姉さまのように、わたくしを導いてくださいました。そして、母を知らないわたくしに、慈母のように接してくださいました。お兄ちゃま、フローレンスさまの仇を討ってくださったのですね! ありがとうございます、ガイお兄ちゃま!」

一息にそう言うと、エリスは大声を出して泣き出した。小さなエリスのどこから出てくるのか、とめどなく流れる涙と鼻水が、ガイの袖や胸に浸み込んでくる。