【前回の記事を読む】「お父さんに高校進学のことで話をしたいことがある」一度合格した学校を辞めて、再び都立受験への相談を父にすることに……。
二、高校受験失敗から補欠募集への回想
父親は「産婆さんを呼んで来ようか?」
母親は「破水したかもしれない」
母親が横になり力みだした。
「うーん、うーん」
陣痛が始まり、痛みの強さや場所が時間を追うごとに変化した。母親の陣痛は、最初は不規則で鈍い下腹部痛だったが、次第に規則的になり、痛みも激しくなった。
胎児が子宮口に向かって下がってくるので、痛む場所も胎児の動きに合わせて変化し、激しい痛みに母親は呻き声を上げていた。
父親は、出産の痛みに耐えている母親の背中をさすった。特に骨盤に差し掛かると狭い骨盤が押し広げられるため、「腰の骨が砕けそう」と表現するほどの痛みに変わった。
子宮口まで胎児が下がると、まさに痛みは最高潮に達し、出産で最も辛い時が母親に訪れた。子宮口が十センチメートルと全開になった状態で、胎児の足が見えた。
「キヨ子、子宮口から足が出ている。逆子だ!」
「父ちゃん、何とかして!」と母親は叫んだ。
「わかった。赤子を子宮口から何とか出すよ」
出産まであと少しという時に、大変な事態となった。赤子を子宮口から出さないと、母体が危ない。
「お前の母さんが産気付いた時、子宮口から足が出ていた」
母親は、赤子が子宮口で止まっていたため、悲鳴を上げていた。父親は、急に産気付いたため、産婆さんを呼ぶ余裕もなく、自ら措置することを決意した。