【前回の記事を読む】「仮にお前の父親が働けなくなったら? 高校卒業後のこともよく考えろ!」強く諭され…胸倉を掴んだ手に力が入らなくなった。
二、高校受験失敗から補欠募集への回想
西は「年間八万円、三年間で二十四万円と入学金十万円を加えると総額三十四万円!」
西がメモを取りながら算出した金額を聞いて、驚くと共に、無知な自分に呆れた。私がしょんぼりしていると「マツは、能天気だなぁ!」私は、西の説明に目線を合わせることができない。高圧的な態度をしていたことが恥ずかしく、情けなくなった。
都立高校と私立高校の差額についてメモを取りながら概算を算出した。
「都立高校は、月謝千円で年間一万二千円、三年間で三万六千円、昭和学園の入学金十万円を加えると十三万六千円で昭和学園よりも割安だ!」西はさらに続けた。
「三十四万円から十三万六千円を引くと二十万四千円の割安だよ!」西の説明を黙って聞いているだけだった。
「この費用には、学校までの交通費や昼食の費用は含まれていない。保谷工と私立昭和学園では、保谷工の方が自宅より遠いので交通費は掛かるけど三年間で二十万円は掛からない」
私は、西に尋ねた。
「何故、俺に保谷工の補欠募集の受験をしつこく、誘うの?」と尋ねた。
西は「自業自得だよ! あとは、絆かなぁ!」と答えた。そして「自業自得の正しい意味わかる?」と西に問い掛けられた。私は「意味はわからないが、自業自得というと何か失敗した時とか、悪いことした時の例えに、よく使う言葉だろう?」と答えた。
西は「自業自得は今では、悪いこととか失敗したことの例えとして使うことが一般的だけど、本来は、カルマという昔のインドの言葉を漢字で示した言葉だよ。日本語では、行為のこと、自分の行いの結果を自分で得る。自分の行いが自分の運命を決める。一生懸命勉強すれば、成績が上がる。勉強を怠ければ成績が下がる」
さらに続けて「つまり、自分の幸せ、不幸せを決めているのは、自分の行為だとお釈迦さまがいう仏教の教えだよ」私は、西の諭す言葉を頷きながら聞いていた。
西は「俺がマツに言うことは、俺自身に問い、自分自身に言っていることだよ、いつか自分に返ってくる。だから自分のためにしていることだよ」「あとは、絆は何のこと?」と西に問い掛けた。
西は「未来のマツへの絆かなぁ!」と答えた。「俺の未来に? よくわからない」と西に言うと、西は「マツ、深く考えるな!」と答えて、自宅に帰った。私は、西が言った自業自得の意味を心にとどめておこうと思った。
西が帰ってから父親に、入学金を払った昭和学園を辞退する理由を考えた。
「そうだ! 西が言ったことをそのまま使おう!」と心の中で囁いた。父親には、自分で考えたような素振りで、昭和学園の入学を辞退する理由を西から聞いたことをそのまま流用した。