「お父さんに高校進学のことで話をしたいことがある」

父親は「高校は、昭和学園に入学金を払ったから決めたんじゃないのか?」と言い返した。私は「もう一度、都立高校に入学できるように頑張ってみたい」と父親に言った。

「入学金が無駄になるぞ」と父親は困った顔をして答えた。

私は、「都立高校に合格できれば、昭和学園の入学金は無駄になるが三年間の月謝と辞退する学校の入学金を合わせても費用は安い」と説得した。父親は、頷きながら「詳細を説明してくれ!」と私に問い掛けた。

私は、私立昭和学園と都立高校の費用の詳細を説明した。

「昭和学園は、授業料は、一ヶ月五千円、施設費用が年間二万円掛かる。月謝が年間六万円と施設費用二万円で合わせて年額八万円になる。三年間で二十四万円と入学金十万円を加えると総額三十四万円となる」

父親は、「都立高校の学費は?」「都立高校は、月謝千円で年間一万二千円、三年間で三万六千円、辞退する昭和学園の入学金十万円を加えても十三万六千円で割安です」

父親は「都立高校に入学した場合は、費用が幾ら安くなる?」

「昭和学園の学費三十四万円から都立高校の総額学費と昭和学園の入学金を合わせた十三万六千円を引くと二十万四千円の割安です」

父親は、私の話を頷きながら黙って聞いていた。

「学校までの交通費を考慮しても、保谷工と昭和学園では、保谷工の方が自宅より遠いので交通費は掛かるけど、三年間で二十万円は掛からない」

父親は「幸一は、進路相談の時は、能天気で何にも考えていないと思ったが、色々調べているんだ!」

私の説明に感心していた。

私は続けて「保谷工の建設科の卒業生は、東京都の土木職で採用されている先輩が数多くいる。事務職よりも技術職は、採用試験のハードルが低いので、卒業すれば公務員になれるチャンスがある」

と西が言ったことを然も自分が考えていたような素振りで、父親に話をした。

「幸一も将来のことをこんなに考えていたのか。死んだ母さんも頼もしい姿見たらさぞ喜んだことだろう」

と言いながら涙ぐんでいた。

父親は、私が生まれた時のことを初めて話した。それまで、父親から私の出生の時の詳しい話を聞いたことがなかったので、驚いて黙って聞くだけだった。

「幸一は逆子だったから、出産は大変だった。危うく母体とも死にかけた」と父親は語った。私は、昭和二十九年六月五日に、錦栄会商店街にある自宅で生まれた。私の母親の陣痛が強くなり「子供が生まれるかもしれない」と叫んだ。

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