【前回の記事を読む】気づいた時には子宮口から足が…!「キヨ子、待っていろ、俺が何とかする!」父が語る幸一誕生の秘話

二、高校受験失敗から補欠募集への回想

翌日、いつものようにヨシが銭湯に誘いに来た。

「マッチャン、富士乃湯に行こうぜ。外で待っているよ!」玄関の引き戸前で叫んでいる。「わかった、直ぐ行くよ!」手拭いと着替えの下着と石鹸を用意して、玄関を出る。

富士乃湯に着くと下足棚に履物を入れて、男湯の暖簾をくぐり、番台のおじさんに入浴料を払う。脱衣室でヨシから「補欠募集の話は断ったの?」と問い掛けられた。「色々あってさぁ!」私は、西に説得されたことを話したくなかったのではぐらかした。ヨシは「補欠募集の話を教えてくれよ!」湯船の中でも補欠募集の話を教えてくれと言われた。

「補欠募集のことをもったいぶらないで、教えてくれよ!」とヨシはしつこく私に問い掛けた。仕方なく「実は、西に父親の年齢のことを言われて断ることができなくなった!」と答えた。

ヨシは不思議そうな顔をして「西のしつこさに凄く嫌がっていたのに?」と聞き返した。

私は「学費が都立高校の方が安いことと父親の年齢が五十八歳で高齢であることを指摘されて、反論できなかった」と肩を落として答えた。

さらに続けて「西と都立高校の補欠募集を受験することを約束したので、受験勉強をすることに決めた!」と答えた。

それを聞いたヨシは、思い悩んだ顔をして

「ふん、そうかぁ! 実は、俺も高校受験に失敗して困っている。補欠募集の話に乗るからそいつを紹介してくれ! 頼むから受験勉強の仲間に入れてくれ!」私は驚いた。

ヨシも高校受験に失敗していたことを内緒にして、高校進学を悩んでいたのだ。保谷工の補欠募集のことが気掛かりだったのだろう。都立高校の補欠募集を受験すると聞いて、渡りに船で好都合だったらしい。

翌日、西の提案により、立川市錦町六丁目の都立図書館で補欠募集の受験勉強を行うことになった。

待ち合わせ場所でヨシを西に紹介した。

「紹介するよ。一中に通学している谷川君だよ。一緒に保谷工を受験したいと言うので、連れてきた」

「わかった。一緒に勉強しよう!」と西は答えた。ヨシは「英語のことは、俺に任せろ。何でも聞いてくれ」と自信ありげに語ったので、私は内心、ヨシが英語が得意だと初めて聞いたので、「本当かなぁ」と疑ったが、結局随分助けてもらった。

西が「工業高校だから、選択科目を決めることにする。俺は公務員志望だから建設科にする」と言うと、ヨシは「バイクや車に興味があるから、機械科にする」と宣言した。私は、西のアドバイスを受入れて建設科を選択した。