何かの節目とでも思ったのだろう。母は、父と私を自分の実家に呼び寄せた。

これで元に戻せる。あの、わずかにでも平穏だった日々に戻れる。

そう思われたのは、ほんの短い間だけだった。母の実家ですくすく育つ弟と妹。彼らの輝かしさと私のみすぼらしさ。

「可愛いね、茜」

「ねー。あっ、ヒマワリの種、食べてるよ!」

そして皆に愛される、小さなペットのハムスター。母は穏やかで、弟や妹も楽しそうで。

邪魔者は私だったのだと痛感した。たとえそういう意図が実際にはなかったとしても、私には、あらゆるものが……自分のことを拒絶しているように思われた!

それなら、こちらが拒絶し返しても、何の問題もないじゃないか。

私が思い通りにならなくて腹立たしいと言うのなら、いっそのこと何にもしてくれるな。

実家でのある夜半のこと。布団の中で泣いていた私の気持ちに、そんな思いが芽生えた。受け入れてさえもらえないなら、何もかも壊してしまえばいい。

小さなハムスターを手に取り、私は家の外に出た。ハムスターの心臓の鼓動がドクドクと伝わってくる。これから何が起きるのか、まるで分からないという様子で私の手につかまれている。

そして私は、ハムスターをそのまま、庭に埋めた。土を掘り、小さな命を埋めたのだ。「私も、君みたいに愛されたかった……」

うつろに呟いて、私はそのまま部屋へ戻った。

案の定、翌朝は大騒ぎになった。

私が起きてこないことなど、誰も気にしていない。皆が気にしていたのは、突然いなくなったハムスターのことばかり。

ただ、ハムスターはすぐに見つかった。庭の土の中から出てきて、塀の隅っこで呑気に草を食べていたのである。そんなハムスターを取り巻いて、皆は話をしている。

そばにあった鉛筆を手に持って、私は皆の所へ駆け寄った。居間が静まり返る。表情をこわばらせ、全員が私の方を見た。私を、見てくれたのだと思った。

「……助けてよ」

思わずそう、声が出た。

「助けてよ! 助けてよ!! お願いだから、助けてよ!」私のまぶたは、あふれ出る涙に濡れていた。

しかし、そうやって叫ぶ私を見て母は悲鳴を上げた。手に持った鉛筆がまるでナイフででもあるかのような怯え方。車の中へ逃げ込もうとする母を、私は走ってつかまえようとする。父はといえば、母を逃がそうとして運転席に飛び乗る。

誰かが通報したのだろう。警察がきた。

家族の陳情だけを聞けば、私は完全な狂人だ。ハムスターに嫉妬し、突然家族へ襲いかかる。そんな人間であるにすぎない。心の奥に隠された苦悩が、外から見えることはない。

次回更新は4月25日(金)、22時の予定です。

 

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