【前回の記事を読む】先生は「副作用は必ず出る」「どの程度出るか、やってみなければ分からない」と言った。…妻の抗がん剤治療が始まった。
第四章 2015年(後)
12月23日(水)
抗がん剤開始3日目
天皇誕生日。陛下、82歳。玄関に国旗を掲げる。この一角で祝日に旗を揚げる家が、うちを含めて3軒ある。2割ほどということになる。
澄み切った空気である。それなりに冷たいが、しかし暖冬と言えるのであろう。特別に寒さを感じた日は、この冬、まだ訪れていない。
一昨日抗がん剤の点滴を受け、昨日から朝夕1日2度の服薬を開始した。つまり今朝が、素人の考えでは、体中の“抗がん剤濃度”が一番高いときになる。どういう状態の朝になるか心配していたが、良子は平気な顔をしている。
指先は確かに冷え、冷たいものに触れると静電気が走るようなビリツキがあるらしい。それで指示された通り手袋をはめている。それ以外は別段の異常はなさそうである。私はほっとした。
ただ抗がん剤開始の前日まで滞りのなかった便通が、21日以来、ないという。これが今や最大の関心事である。不安であり、恐怖に近い。
「オナラは出る」
「そんなら通じているんだろう。慌てるな」
聞くと、便通促進剤の服用を中止したという。これは本人の判断に任されていたらしい。しかし昨晩、再開したという。朝に抗がん剤を飲んだ。三度目である。
顔色は良く、よくしゃべる。最初は気力のなかった読書も始まっている。食欲も出てきた。それでも食べる量は以前の半分以下なのであるから、出ない日があっても不思議でない、と私は思った。そうは思ってみても、不安だった。
昼前に、良子は2階へ上がってきて、「出た出た」と言った。
「出たか!」
「出た」
「良かったなあ! バンザイ」
私の気持ちはいっぺんに軽くなった。オナラとうんこは本当に大切だ。
ところで私のうんこであるが、良子に付き合って野菜たっぷりの食事になり、大腸ポリープ切除後の禁酒期間に入っているので、素晴らしいものが出る。量、形状、硬度、色、最高である。