私は妹を人格ある個人として見ることをしなかったのである。

茜はあの日救えなかった女の子とはまるで別の人間である。そう考えることがどうしてもできなかった私は、妹を人でない「人形のような存在」と思いなおすことで、妹のことをどうにかして受け止めようとしていた。

今では、それがどんなに愚劣なことであったか、よく分かっている。

「……茜」

体が次第に重くなってゆくような気分である。

胸のうちに秘めた感情がぱつんと弾けた。メモ帳がぱらぱらとめくられて、いつの日にか書き付けた自作の詩を、私は見ていた。

鳴くことのできぬ空蝉 (うつせみ)みたい

そんな風に 今日は心が曇っている

沈黙の中 君は生まれ変わったのかな

その空洞に 雨水が溜まってゆく

地に落ちて 誰かの足の下でバラバラに壊れた僕は怠け者だから

怠け者らしく夢を見る

朝焼けは僕にはまぶしすぎて 月明りは 僕には美しすぎる僕もまた 沈黙の中 生まれ変わる

ありとあらゆる疲れを呑みこみつつも

確実にそこにある ひそかな空隙 (くうげき)

まるで、今のこの私のようだ。詩を読み返し、そんなことを考えた。

大きな穴が、心の中に空いている。

障害と向き合い、こうして独りで暮らす家を手に入れ、ついには遊びに来てくれる友人を得るまでになってなお、私の心の内面には、底知れぬ深さの穴がある。

机の縁には晩に飲むように決められた薬が置いてあるのだが、今となっては飲む気にすらならない。

心の穴へと吸い込まれるように、私の意識は暗く、澱(よど)んでいくのであった。