「われらは、都から来た。おれの名は大犬。蘇我英子様の一行だ。前野の県主(あがたぬし)様はおられるか。門を開けろ」

大犬に向かっている、館の兵たちも戸惑っている。やがて、門から大柄な年配の男が出てきた。

「おう。大犬か。久しぶりだな」大犬も馬を降りた。

「前野主様も、息災で」

男は頷くと、兵に向かって手を振り、下がらせた。

「蘇我英子様の一行です。訳あって、おれが常陸まで道案内している」

「そうか」

英子の方を向く。

「それはご無礼を」前野の県主と呼ばれる男は、英子たちの一行に向かって頭を下げた。英子たちはその男、前野主の先導で、馬を進める。門から館の中庭に入っていく。館の兵たちは一行を出迎えるよう整列している。英子は馬を降りた。あらためて、前野主が頭を下げる。

「とんだご無礼をいたしました。前野主でございます」

大犬が、前野の地一帯を治める県主で、周りの税の取りまとめもしている、そう、英子の耳元でささやいた。英子もそれを聞いて頷く。

「さあ、こちらへ」

前野主が母屋へ一行を案内した。大急ぎで酒肴の支度が整えられている。やがて歓迎の宴が始まった。

 

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