「老剣がこちらに剣を向ければ、立ち合うことになる。私は、連様を守ることが使命だ。二十年前、大連(おおむらじ)守屋様の最後の言葉でその命を受けた。その命は、今でも生きている」

龍円士は、館で討ち死にした大連の物部守屋(もののべのもりや)の名を口にした。蘇我大臣(そがのおおおみ)や厩戸皇子を戴(いただ)く軍勢に館が囲まれたとき、守屋が仁人を龍円士に託したのだ。龍円士はそれ以来、物部仁人を連と呼んで守り抜いてきた。

龍円士の言葉に仁人は頷く。

しかし、龍円士の本心はもう一つあるはずだ。仁人は知っている。あわよくば、師の老剣を倒して、名実共に龍派を自ら継ぐ。このまま物部は滅んでも、龍派は残る。そして再び、都で剣の名を上げたいはずだ。

「おれの側にいれば、必ず、老剣と剣を合わせる機会があるはずだ。そして、あの坊主の成果を首尾良く奪い、おれが都に持ち帰れば。それで物部の再興も成る。龍派のおまえの名も、この国だけではない。韓や隋まで轟くだろう」

碗の酒を飲みながら仁人がそう言うと、龍円士はにこりともせずに、また剣の手入れを続けていた。

案内役の兵、大犬が先導して、村に入った。畑が続いている中で、ひときわ大きな館がある。塀に囲まれた奥に母屋や倉がいくつも見える。こちらの一行が近づくと、塀の門が開いた。中から兵がばらばらと出てくる。村に近づいているうちに、気付かれて、伝令でも走ったに違いない。待ち構えていた。

大犬が、英子と老剣に止まるように合図する。兵がこちらを矢で狙っていた。三十は兵がいる。英子の兵も、すぐに弓を取り、剣を構える。

「やめ。武器を下ろせ」

英子の言葉に

「英子様、おれが先に行きます」

大犬はそう言うと、一騎で先に走る。門の前の兵たちが矢で狙っている中で、馬を止めた。大声を出す。