【前回の記事を読む】昨晩集中治療室に入った妻。疲れてはいるのだろうが、それ以上に“うんざり”しているようだった。いつも笑顔の妻が無表情だった

第四章 2015年(後)

11月27日(金)
辛抱するしか、……

今日は会社を早く引き、6時に良子を訪ねた。

鼻のチューブは取れていた。昨日のような辛い表情はなかったが、やはり笑顔はなかった。

それでも、ほんの少しは改善していた。「今日は2度、院内を歩いた」と言った。

「げっぷは出るのにオナラが出ない。ガスがあるのは分かるのに、出ない」

不安そうに言った。再びみたび、オナラが最大の懸案となった。

ナースが点滴液を交換した。

しばらくしてナースが粒状のクスリを2粒良子に呑ませた。痛み止めとのことであった。

「時間が経つにつれて楽になると看護師さんは言っている」と良子は言った。

「辛抱して、時間が過ぎるのを待つしかないね」

今夜は7時半からフィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ今季第6戦、NHK杯の放映がある。良子は極端な近視なので実際にスポーツ観戦しても楽しめず、競技場へは行かない。しかしテレビで見るのは大好きで、スポーツ全般、ゴルフ、競馬を含め、私より数段詳しい。フィギュアスケートも大好きである。

私は、「見ると疲れるから、音だけでも聞くかい?」と言った。良子はうなずいた。

私はテレビのスイッチを入れ、チャンネルをNHKに合わせた。

そして7時過ぎに病室を出た。

良子は手を振ったが、腕は上がらなかった。

帰って、シャワー前に体重を量ると、70.5kgで、ついに71kgを切った。いずれ60kg台に入るのかもしれない。夕食前とは言え、20歳代の体重である。