実は、おじいさんと長く暮らしたのとの住むアパートに、おじいさんから手紙が届いていた。その手紙が来てからもう何日も経っていた。手紙には「のと、こっちに来られるようだったら来てくれないか。

また一緒に暮らそう。わしもすっかり元気になって、広い庭で走り回っているよ。わしと2人で追いかけっこをしたら面白いぞ。住所は書いておいたからな。待っておるからな」と書かれてあった。

たまっていたアパートの家賃は、ぽろもきと一緒にパン屋さんで働いたおかげで全部払うことができ、今では貯まったお金でおじいさんの住所まで船で行くことも十分可能だった。

ぽろもきは、のとがおじいさんのところへ行けるように一緒に働いてくれている。当然、手紙のことをすぐに知らせるべきだった。

のとはもっとぽろもきと一緒にいたいと思っていた。ぽろもきの優しい笑顔が大好きだった。朝は笑顔で挨拶をして、鼻歌を口ずさむことさえある。

のとのために文句の1つも言わないで汗を流しながらパンを焼き、カーティムから教わったことをちゃんと覚え、お客さんに美味しいパンを食べてもらおうと工夫を凝らす仕事熱心な姿も魅力的だった。

そう、のとはぽろもきと離れたくなかったのだ。でも、のとは両親もいない貧乏な人間。ぽろもきは、大都会島の偉い両親の息子。今度の試験に受かったら遠くへ行ってしまう人。

いつまでもぽろもきの厚意に甘えていてはいけない。

そう思いながらも、おじいさんからの手紙のことを言えずにいる苦しい日々が、のとには続いていた。

 

 

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