その日私は小学校から帰ると、鮮魚店の事務机に座り落書きしながら父ハルの話を聞いていた。
「俺の家の継母はそれはそれは金使いが荒い人でなぁ、スイカが食べたい、高級な桃が食べたいと言ってはおじいさんから受け継いだ田畑を売ってまで買って食べるんや。実の子どもばっかりが食べて俺には一切食べさせへん。あいつはひどい奴や。ハハハッ」とハルは魚をさばきながら昔の苦労話をした。
「一番つらかった思い出は、ぜいたくにお金使っておいて今日は食べるお米がないからハル、おまえ隣の家にお米を借りにいってきてちょうだいって言いやがる。ほんま困った継母やぁ。ハハハッ」と最後は笑って終わる。
「へぇ、大変やったんやなぁ、大将は」と従業員は返す。
ハルが11歳の頃に母親が結核でこの世を去り、家のことができない父親は再婚した。
継母はたくさん子どもを産んでハルに子守役をさせた。ハルの実の兄姉はすでに働いて家を出ていたのでハルは一人ぼっちだった。
「なんや寂しかったなぁ。父親は優しい人やったから継母によう物言わんのやぁ。時々自分の死んだ母親が俺のことを大事に思ってくれていたのかも心配になって、母親の墓に行くとお寺の和尚さんが、帰りの遅いおまえを心配してよく探しに来とったでぇって教えてくれたけどなぁ。なんや寂しかったなぁ」とハルは続ける。
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