【前回の記事を読む】以前からタバコ屋のおばさんが好きだった。ただ、それは肌を重ねたいだけの性的な対象であり、恋愛したい理想の女性のイメージは…
仙一
ガラス戸を開け「タバコをください」と、声をかけると大概は奥の台所で用事をしていたタエが、「はーい」と、色気のある返事で暖簾をくぐってタバコ販売用の窓口に現れる時、その暖簾を潜る際の、着物の袖口から垣間見える二の腕がなまめかしく、それを見たいが為に、使いっ走りを買って出ていた。
いや、先年まで飯炊だった時からのいわば仕事でもあり、文句を言って辞退出来る様な事でも無かったが。
タエの、色白で悩ましい仕草が密かに一夫の性的な興奮を呼び、今ではその想像を巡らすだけで下着の中で変化が起こる。
それは、未だ誰も知らない一夫だけの甘い切ない事情だった。
タエの動きの先を想像した時は、仕事着のゆったりしたズボンの中で、自分の意思に反して身体に変化が始まり、他人に気づかれない様に誤魔化すのはひと苦労だった。
一夫の仕事は、まだ上からの指示通り動くことが中心で、そんな、空想に耽りながら仕事に励む時もしばしばだった。
一夫は、この酒造会社に入社して今年で3年目。みんなと同じ様に初めは飯炊きから始まった。
その最初の頃から、タエが好きだった様な気がする。ただ、これが恋というのならそれは報われそうにない恋でもあった。