宮之浦岳

まずは、宮之浦岳に行きたかった。縄文杉には心を寄せていたものの、あまりにも観光地化しすぎていて、すぐに行く気にはなれなかった。行程も、片道五時間だ。自分にはハードルが高い。

同じ時間をかけるなら、宮之浦岳がいい、と思った。雑誌で見かける山頂付近の様子は、それまで見たことのないものだったからだ。

しかし誰と行くか。それが問題だった。行き慣れた太鼓岩は行程も短いので、いつも一人で難なく行けていたが、片道五時間ともなれば話は違う。

屋久島の山は怖い。とにかく緑深く、奥行きも深い。遭難という言葉が、さもありなん、と思う様子をしている。

私が暮らしていた五年の間にも、一体何人の人が帰ってこなかったり、命を落としただろう。

屋久杉ランドもルートによってはとても危険なところだ。ランドなどというテーマパークのような言葉で軽く考えていたら、怖いことになる。

私は、時期を待ってシャクナゲ登山に参加することにした。それなら、比較的お得なガイド料金で複数の人と登れるからだ。富士山以来の、長い行程である。あの時は、若さだけで突き進める力があった。

しかし今は、ウォーキング以外の運動をしていない四十のおばさんである。大学生活から、かれこれ二十年は経っている。

私は緊張した。

子どもは、夫が預かってくれる。でも自分の体力が大丈夫だろうか。登山前夜、私は緊張でほとんど眠れなかった。どうしよう、どうしよう、これから長時間登るのに、寝れなかった、寝れなかった……。

頭の中は、不安でいっぱいだった。寝れないで登ったら、どうなるんだろう……?

翌日、集合場所にガイドさんと私を含め四人が集まった。地元のおじさん一人、関西から来た女性が二人。ガイドさんは、小柄だが力強そうな体をしている。

それぞれ自己紹介して、登山がスタートした。

私が「昨夜はほとんど眠れず、不安だ」と言うと、おじさんが、「大丈夫、宮之浦岳は、そこまで大変な山じゃあないよ」と言った。

私はそれを聞いて、少しほっとした。

 

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