「あのう、お米はどこへ行ったら手に入りますやろ?」

格之助が見ると、女の足が泥だらけである。

「さて、こっちも困っておる。お主はどこから参ったのだ?」

「へえ、京からどす。夜通し歩いて」

「うむ。しかしな、領外の者は……」

言いかけた時に、女の背に負った赤子が泣き出した。格之助にも二歳の乳児がいる。他人事ではない。

「ひとまずうちへ来い。少しばかりだが、玄米をただで分けてやる。赤子に粥でも啜らせよ。よいな」

女はその場で土下座した。

「お武家様。おおきに、おおきに」

背中の赤子はさらに泣き続け、格之助はいたたまれない気分になった。

それから数日経った正月の末。格之助は与力部屋で、大坂町奉行勤方帳を改めていた。

これは町奉行や与力の行動予定表である。翌二月一九日の欄に西町奉行・堀利堅が着任挨拶をする、という記述があった。

(また新任様か。どうせ跡部と同類の腰掛け役人なんやろうな)

大坂はどんどん腐敗していく。それを止めるには、父上が言うように決起するしかないのだろうか?

「与力殿」

格之助は慌てて勤方帳を閉じた。同心の一人が襖を開け恭しく報告する。

「本日のお白洲、ご検分願います」