お母さんが僕の頭を撫でて「いい子にしててね」と言って荷物を取りに家へと帰って行った。なんだか近くにいるのに遠くに感じる。大人が笑う時って悲しいのかなって思って僕も悲しくなる。

くみちゃんママがお母さんの背中を見つめる僕の身体をパッパと払ってくれた。くみちゃんママはいつも優しくて、僕が夜眠れなくて泣いていると「洋ちゃんたちの二人目のお母さんだと思ってね」って抱きしめてくれる。それはすごく嬉しいんだけどやっぱりお母さんはお母さんしかいないからなんか違った。

僕が四歳になる少し前にしおちゃんが産まれた。初めてできた妹と一緒におもちゃで遊ぼうと計画をたてていたけどしおちゃんが家にいることはすごく少なかった。お母さんはしおちゃんは難しい病気で病院でお薬や注射をしなきゃいけないからお家には中々いれないんだと教えてくれた。

僕と珠ちゃんが保育園と小学校にいる間、お母さんはしおちゃんのお部屋にいる。僕らが帰ってくる時間になると一旦帰ってきてすぐに戻っていく。そんな生活がずっと続いていた。

お母さんがいない時は大体くみちゃんか別の棟にいるお母さんの一番上のお兄ちゃん、邦夫おじさんの家で過ごした。

邦夫おじさんは近くで工場を経営している。工場の中は大きな機械がいっぱいあって耳を塞ぎたくなるような音をたててガシャンガシャンと動いていた。僕はそのロボットたちが放つ油と熱の匂いが好きで時々遊びに連れて来てもらっていた。僕をひょいと担いで笑うおじさんは背が高くて役者さんみたいに格好良くてジーパンが似合うので僕は勝手にジーパンおじさんと呼んでいた。

ジーパンおじさんの家ではあんまり大きな声を出しちゃだめっておばさんに怒られた。いとこのお姉ちゃんも遊んでくれるけどいっぱい笑うのも怒られる気がして珠ちゃんとなるべくこそこそ話をしてた。でも多分お母さんにこれを言うともっと悲しい顔になる気がするから僕は体いっぱいで小さな楽しかったことを伝えるようにした。

 

次回更新は3月5日(水)、8時の予定です。

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